このサイトの各記事に載っている価格は、不動産会社が「いくらで売れそうか」を見積もった金額ではありません。国土交通省の不動産情報ライブラリ(reinfolib)が公開している、実際に買主と売主のあいだで合意して成立した取引の記録(成約価格情報・XIT001)です。すでに終わった取引の事実であって、これから売る物件がいくらになるかを予想したものではありません。
一方、不動産を売ろうとするとき最初に手にする金額は、たいてい不動産会社の「査定額」です。査定額は、これから売り出す物件について、不動産会社が周辺の取引事例や物件の状態を踏まえて出す見立てです。同じ物件でも会社によって数百万円単位で違う金額が出ることがあり、「どちらを信じればいいのか分からない」という声につながりやすい部分でもあります。
このサイトを見て「うちの査定額と全然違う」と感じた人は、まずこの2つがそもそも別のものさしだということを知っておくと、数字の見方が変わります。成約価格は過去の事実、査定額は未来の見立てです。どちらか一方が正しくて一方が間違っているという話ではなく、性質が違う2つの数字を、それぞれの役割に合わせて使うものです。
この記事では、成約価格と査定額の違いを整理したうえで、同じ市区町村・同じ種別の中でも実際の成約価格にどれだけの幅があるかを、実際のデータで確認します。査定額が個別の物件ごとに違う金額になる理由も、この幅の中に表れています。数字は最小限にとどめ、件数を必ず添えます。推計や予測は行いません。
「成約価格」と「査定額」は、そもそも別のものさし
同じ「価格」という言葉を使っていても、成約価格と査定額は出どころも性質もまったく違います。まず、この2つを並べて整理しておきます。
| 成約価格 | 査定額 | |
|---|---|---|
| 何を表すか | 実際に売買が成立した金額(事実) | これから売る場合の予想金額(見立て) |
| いつの時点の数字か | 過去に取引が終わった時点 | これから売り出そうとする時点 |
| 誰が出すか | 買主と売主の合意(第三者は関与しない) | 不動産会社(依頼した会社の判断) |
| 反映されるもの | 実際にその金額で買う人がいたという結果 | 周辺の取引事例・物件の現況・会社の判断基準 |
| 同じ物件で複数の数字が出るか | 出ない(取引は1件につき1つの金額) | 出る(会社によって異なることがある) |
| 公的データに載るか | 載る(reinfolib・XIT001) | 載らない(会社ごとの内部の見積もり) |
成約価格は、実際にその金額で買いたいという人が現れて、契約が成立したという結果です。市場に出してみないと分からない「本当に買う人がいくら払うか」という問いに、すでに答えが出ている数字だと言えます。国土交通省はこの取引の当事者に任意でアンケートを行い、回答を集計してreinfolibで公開しています。
査定額は逆に、まだ市場に出していない段階で、これから売り出したらいくらくらいで売れそうかを見積もったものです。見積もりである以上、実際に売り出してみて誰も買わなければ、査定額どおりには売れません。反対に、条件のよい買主が現れれば査定額より高く売れることもあります。査定額は「売れる金額を保証するもの」ではなく、「売り出す前の目安」という位置づけです。
このサイトが載せているのは、もう終わった取引の記録
このサイトの価格推移や相場の記事に出てくる数字は、すべて成約価格です。すでに売買契約が成立し、代金の授受まで済んだ取引を集計しています。これから売り出す物件がいくらで売れるかを予測したものではなく、同じ市区町村・同じ種別の中で、過去に実際いくらで売れたかを、件数とともに示しています。
成約価格の強みは、実際に買う人がいた金額だという裏付けがあることです。査定額のように会社ごとに違う数字が出ることはなく、1件の取引につき1つの金額しかありません。多数の取引を集めれば、その市区町村・その種別で「実際にはどのくらいの金額で取引が成立しているか」という相場観を、事実にもとづいて示すことができます。
一方で、成約価格には弱みもあります。すでに終わった取引の記録なので、これから売る物件がその金額で売れることを保証しないという点です。市場の状況や個々の物件の条件は日々変わるため、過去の成約価格の集まりである相場は、あくまで「この市区町村・この種別では、これまでこのくらいの金額で取引されてきた」という参考にとどまります。また、公開されている取引データには、駅からの距離や物件の階数、リフォームの履歴といった個別の情報が含まれていません。この点は次の項で詳しく触れます。
査定額は、まだ起きていないことの見立て
査定額を出す不動産会社は、多くの場合、周辺で成立した過去の取引事例(つまり成約価格に近い情報)を参考にしたうえで、そこに個別の物件の条件を加味して金額を組み立てています。この「個別の条件を加味する」という部分が、成約価格の集計だけでは分からない、査定額ならではの役割です。
査定の方法は大きく2つに分かれます。机上査定は、物件の所在地・面積・築年数などの情報だけをもとに、現地を見ずに出す簡易的な見積もりです。短時間で金額の目安をつかめる一方、実際の建物の状態までは反映されません。訪問査定は、担当者が実際に物件を訪れ、日当たりや眺望、内装の傷み具合、リフォームの有無、周辺環境などを直接確認したうえで金額を出します。同じ物件でも、机上査定と訪問査定で金額が変わることがあります。
査定額が会社によって異なることがあるのは、担当者が着目する事例の選び方や、物件の状態をどう評価するかの基準が、会社や担当者によって違うためです。これは「どちらかが不正確」という話ではなく、査定がまだ起きていないことについての見立てである以上、見立てる人によって幅が出ること自体は自然なことです。
同じ市区町村・同じ種別でも、価格には幅がある
査定額が個別の物件ごとに違う金額になりやすい理由を、成約価格のデータそのものから確認します。同じ市区町村・同じ種別に絞っても、実際に成立した取引の金額には、思っている以上の幅があります。
北海道室蘭市の中古戸建てを例にします。実際に成立した取引604件を価格の低い順に並べると、真ん中(中央値)にあたる金額は450万円です。ところが、安いほうの目安(下から4分の1にあたる金額)は150万円、高いほうの目安(上から4分の1にあたる金額)は1,600万円で、高いほうの目安は安いほうの目安のおよそ10.7倍にあたります。
| 位置づけ | 金額 |
|---|---|
| 安いほうの目安(下から4分の1にあたる金額) | 150万円 |
| 真ん中(中央値) | 450万円 |
| 高いほうの目安(上から4分の1にあたる金額) | 1,600万円 |
| 対象取引件数 | 604件 |
「室蘭市の中古戸建ての相場は450万円くらい」とひとことで言うことはできますが、実際にはその周辺に150万円台の取引も、1,600万円台の取引も同じように含まれているということです。中央値ひとつだけを見て「この街の戸建てはだいたいこの金額」と考えると、実際の物件によってはそこから大きく外れることになります。
同じような広い幅は、室蘭市に限った話ではありません。福岡県北九州市八幡東区の中古戸建て(257件)では、安いほうの目安210万円に対して高いほうの目安は3,100万円で、比率にすると約14.8倍です。同じく北九州市門司区の中古戸建て(487件)でも、安いほうの目安270万円に対して高いほうの目安2,900万円と、約10.7倍の開きがあります。中古戸建ては、建物の古さ・広さ・立地の条件の幅が広いぶん、中古マンションよりもこうした開きが大きくなりやすい傾向があります。
査定額は、この幅の中のどこにその物件が位置するかを、個別の条件から判断する作業だと言えます。中央値である450万円をそのまま当てはめるのではなく、その物件が幅の高いほうに近いのか、安いほうに近いのかを、駅からの距離や建物の状態から見積もるのが査定額の役割です。
なぜここまで差が出るのか
同じ市区町村・同じ種別なのに、なぜ成約価格にこれほどの幅が出るのでしょうか。理由の一部は、このサイトが使っている公的データ(reinfolib・XIT001)に、そもそも個別の物件を見分ける情報が含まれていないことにあります。
公開されている取引データに含まれるのは、おおまかな所在地(市区町村・地区名まで)、取引価格、面積、築年数、建物の構造といった項目です。一方で、次のような情報は含まれていません。
| 含まれない情報 | 価格への影響 |
|---|---|
| 駅からの距離 | 同じ市区町村でも駅に近いほど高くなりやすい |
| 建物の階数・部屋の位置 | マンションでは高層階・角部屋などで差が出やすい |
| 日当たり・眺望・向き | 同じ間取りでも体感の価値が変わる |
| リフォーム・修繕の履歴 | 内装や設備の新しさが価格に反映される |
| 土地の形状・接道状況 | 戸建て・土地では使い勝手に直結する |
| 周辺の再開発・生活利便施設の状況 | 数年単位で変わり、価格に影響しうる |
成約価格の集計は、これらの条件をすべてならした結果です。駅から近くリフォーム済みの物件も、駅から遠く古いままの物件も、同じ市区町村・同じ種別であれば同じ集計に含まれます。中央値や幅は、その市区町村全体の傾向を示すものであって、個々の物件がどの条件に当てはまるかまでは教えてくれません。
査定額は、このならされた部分をもう一度個別に見直す作業だと言えます。訪問査定であれば、駅からの距離や部屋の状態を担当者が直接確認し、成約価格の幅の中でその物件がどのあたりに位置するかを判断します。逆に言えば、査定額が成約価格の中央値とずれるのは自然なことで、むしろ個別の条件を反映できているからこそずれる、という見方もできます。
幅が狭い街もある
すべての市区町村・種別で、これほど大きな幅が出るわけではありません。逆に、成約価格の幅が非常に狭い例もあります。
愛知県刈谷市の中古戸建て(719件)は、真ん中(中央値)4,100万円に対して、安いほうの目安3,500万円、高いほうの目安4,600万円で、比率は約1.31倍にとどまります。茨城県つくばみらい市の中古マンション(148件)も、中央値2,500万円に対して安いほうの目安2,300万円、高いほうの目安2,900万円で約1.26倍、福岡県粕屋郡志免町の中古マンション(101件)も中央値2,400万円に対して安いほうの目安2,100万円、高いほうの目安2,700万円で約1.29倍と、いずれも幅が小さくまとまっています。
| 市区町村 | 種別 | 安いほうの目安 | 真ん中 | 高いほうの目安 | 件数 | 高いほう÷安いほう |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 室蘭市(北海道) | 中古戸建て | 150万円 | 450万円 | 1,600万円 | 604件 | 約10.7倍 |
| 刈谷市(愛知県) | 中古戸建て | 3,500万円 | 4,100万円 | 4,600万円 | 719件 | 約1.31倍 |
| つくばみらい市(茨城県) | 中古マンション | 2,300万円 | 2,500万円 | 2,900万円 | 148件 | 約1.26倍 |
| 粕屋郡志免町(福岡県) | 中古マンション | 2,100万円 | 2,400万円 | 2,700万円 | 101件 | 約1.29倍 |
刈谷市・つくばみらい市・志免町の3市区町村は、いずれも件数(101〜719件)は十分にありながら、幅は室蘭市の10分の1程度に収まっています。なぜこの3市区町村で幅が狭いのかを、このデータだけから断定することはできません。ただし、幅が狭い市区町村では、成約価格の中央値がその市区町村の相場をより代表しやすく、逆に幅が広い市区町村では、中央値だけでは個々の物件の実際の価格を言い当てにくい、ということは言えます。
査定額と成約価格、両方を見て判断する
ここまで見てきたとおり、成約価格の集計と査定額は、どちらか一方だけで十分というものではありません。成約価格の集計は、その市区町村・その種別で実際にいくらの幅で取引されてきたかという事実を、件数の裏付けとともに示します。査定額は、その事実の幅の中で、自分の物件がどのあたりに位置するかを、駅からの距離や物件の状態といった個別の条件から見積もります。
成約価格の幅を先に把握しておくと、査定額を受け取ったときの見方が変わります。たとえば幅の広い市区町村で査定額を受け取った場合、その金額が中央値に近いのか、高いほうの目安・安いほうの目安のどちらに近いのかを見ることで、査定の根拠になった条件をより具体的に担当者に確認しやすくなります。逆に、複数の会社から大きく違う査定額が出た場合も、その市区町村の成約価格にもともとどれくらいの幅があるのかを知っていれば、その違いが妥当な範囲なのかどうかを判断する材料になります。
査定額を受けること自体に、売却する義務はありません。複数の査定を比べる、成約価格の実際のデータと照らし合わせる、といった手順を踏んだうえで、売るかどうか・いつ売るかは個別の事情にもとづいて判断することになります。このサイトが示せるのは、あくまで過去に実際いくらで売れたかという事実までで、これから売る判断そのものを代わりに下すものではありません。
自分の街の実際の成約データを確認する
この記事で示した幅は、室蘭市・刈谷市・つくばみらい市・粕屋郡志免町という一部の市区町村の例です。実際の幅は市区町村ごとに異なるため、自分の街・自分の物件に近い条件でどうなっているかは、個別に確認する必要があります。
- 1お住まいの地域・都道府県を選ぶ
- 2市区町村を選ぶ
- 3築年数のおおよその範囲を選ぶ
- 4その条件に合う実際の成約価格を、件数つきで確認する
ウリドキナビでは、画面右下の相談窓口から、都道府県・市区町村・築年数を選ぶだけで、その条件に合う実際の成約価格を確認できます。物件種別(マンション・戸建て)を選ぶ必要はなく、両方の結果をまとめて確認できます。回答するのは推計モデルではなく、条件に合う実際の成約記録です。条件に合う取引が少ない場合は、その旨を明示したうえで参考値として示します。実際の成約価格を確認する のページからも、同じ内容を確認できます。
この記事で例に挙げた市区町村の、より詳しい価格推移は、それぞれの記事でも確認できます。室蘭市の中古戸建て相場、刈谷市の中古戸建て相場、つくばみらい市の中古マンション相場、粕屋郡志免町の中古マンション相場 では、それぞれの市区町村の価格推移を、件数とともにより詳しく示しています。
成約価格の実際の幅を把握したうえで査定額を受け取ると、その金額が何を根拠にしているのかを担当者に確認しやすくなります。査定額と成約価格、どちらか一方だけを見るのではなく、両方を照らし合わせることが、実態に近い判断につながります。
この記事のデータについて
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 出典 | 国土交通省 不動産情報ライブラリ(reinfolib) 不動産取引価格情報(XIT001) |
| 対象 | 実際に成立した中古マンション・中古戸建ての成約価格(推計・予測は含まない) |
| 集計単位 | 市区町村 × 種別(築年数・面積は問わない) |
| 母集団の下限 | 同じ市区町村・種別の取引が100件以上 |
| 対象の組み合わせ数 | 全国の市区町村×種別のうち、この条件を満たす1,467件 |
| 幅の示し方 | 対象取引を価格の低い順に並べたときの、安いほうの目安(下から4分の1)・真ん中(中央値)・高いほうの目安(上から4分の1) |
この記事で使った幅の大きさ(高いほうの目安÷安いほうの目安)は、母集団1,467件の組み合わせの中から、幅が広い例・狭い例をそれぞれ実際の数字で示したもので、全国の平均的な幅を表すものではありません。自分の街の幅がどのくらいかは、上記の成約価格の確認、またはそれぞれの市区町村の記事で個別に確認してください。
このデータは実際の取引にもとづいて更新します。新しい年の成約が加わった際は、同じURLのまま数字を更新します。年ごとに新しいページを作ることはしません。
