不動産の価格を語るとき、「平均◯◯万円」という言い方をよく見かけます。しかしこのサイトでは、相場を示すときに「平均値」ではなく「中央値」を使っています。同じ数字の集まりでも、平均値と中央値はまったく違う考え方で計算されており、不動産のように価格の開きが大きいデータでは、この違いが実際の相場感を左右します。

平均値は、対象となるすべての取引価格を合計し、件数で割って求めます。ごく少数でも極端に高い(あるいは安い)取引が混ざっていると、その1件が全体の合計を押し上げ(または押し下げ)、平均値は実際の「真ん中あたりの物件」からずれた金額になります。一方、中央値は価格の低い順に取引を並べ、ちょうど真ん中に来る1件の価格です。極端に高い・安い取引が1件あっても、順番が真ん中からずれない限り中央値は動きません。

この記事では、まず平均値と中央値の考え方の違いを整理したうえで、国土交通省の不動産情報ライブラリ(reinfolib)にある実際の成約データを使い、中央値のまわりに実際どれくらいの幅があるかを市区町村ごとに確認します。中央値は極端な値に振り回されにくい指標ですが、「中央値だけ分かれば街の相場が分かる」というわけでもありません。中央値の近くにどれだけ価格がばらついているかまで見て、はじめて実態に近づきます。

不動産のニュースや広告で「平均価格◯◯万円」という見出しを目にしたことがある人は多いと思います。こうした見出しは間違った数字を使っているわけではありませんが、平均値という指標の性質上、実際に多くの人が経験する金額よりも高めに出やすいという特徴があります。このサイトが相場として示す数字は、こうした平均値ではなく、常に中央値です。

紹介する数字はすべて、同じ市区町村・同じ種別で取引件数が100件以上ある組み合わせに絞った、実際の成約価格の集計です。推計や将来予測は行わず、件数を必ず添えて示します。

「平均値」と「中央値」は何が違うのか

このセクションでは、まず2つの指標の計算方法の違いを確認します。

平均値の計算方法はシンプルです。対象となる取引の価格をすべて足し合わせ、件数で割ります。この計算方法には、ごく少数の極端な価格が全体を大きく動かすという性質があります。たとえば10件の取引のうち9件が3,000万円前後でも、残り1件が3億円で成立していれば、平均値はその1件に引っ張られて大きく上振れします。実際の取引の大半が3,000万円前後だったという実態は、平均値だけを見ていると見えにくくなります。

中央値はこれと違い、価格の低い順に並べたときに真ん中に来る1件の価格です。先ほどの例では、10件を安い順に並べて5番目・6番目にあたる価格(3,000万円前後)が中央値になります。3億円の取引が混ざっていても、それが「一番高い1件」として端に位置するだけなので、中央値そのものは動きません。

平均値中央値
計算方法価格の合計 ÷ 件数価格順に並べた真ん中の1件
極端に高い・安い取引の影響受けやすい(1件でも全体を動かす)受けにくい(順番が真ん中からずれない限り動かない)
表しているもの全体の合計をならした金額「真ん中あたりの物件」の実際の価格
このサイトでの扱い使わない相場として使う

「うちの街の相場はいくらくらいか」を知りたいとき、平均値だと少数の物件に引っ張られた金額を見てしまう可能性があります。中央値のほうが、多くの取引の実態に近い金額を示しやすいという理由から、このサイトでは一貫して中央値を採用しています。

同じ市区町村の中でも、敷地が広い新築の物件や、逆に取り壊し前提で安く取引される老朽物件が同じ集計に含まれることがあります。こうした条件の違う取引が同じ市区町村・同じ種別としてひとまとめに集計される以上、平均値がどちらかの方向に引っ張られること自体は、統計の計算方法として自然な現象です。次の項では、この引っ張られ方の大きさが、実際の成約データでどれくらい違うのかを確認します。

中央値のまわりにも、実際にはこれだけの幅がある

中央値は極端な値に振り回されにくい指標ですが、それは「中央値だけですべてが分かる」ということではありません。同じ市区町村・同じ種別の中でも、実際の取引価格には中央値を挟んで相応の幅があります。

新潟県上越市の中古戸建てを例にします。実際に成立した取引821件を価格の低い順に並べると、真ん中(中央値)にあたる金額は870万円です。ところが、安いほうの目安(下から4分の1にあたる金額)は250万円、高いほうの目安(上から4分の1にあたる金額)は2,100万円で、高いほうの目安は安いほうの目安のおよそ8.4倍にあたります。

位置づけ金額
安いほうの目安(下から4分の1にあたる金額)250万円
真ん中(中央値)870万円
高いほうの目安(上から4分の1にあたる金額)2,100万円
対象取引件数821件

「上越市の中古戸建ての相場は870万円くらい」と言うこと自体は間違いではありません。ただし実際には、その周辺に250万円台の取引も、2,100万円台の取引も同じように含まれています。中央値のさらに高いほう寄りに、平均値を押し上げるような高額な取引が実際に存在しているということです。中央値ひとつだけを見て「この街の戸建てはだいたいこの金額」と考えると、自分の物件がその幅のどのあたりに位置するのかまでは分かりません。

同じような幅の広さは、上越市に限った話ではありません。福島県岩瀬郡天栄村の中古戸建て(117件)では、安いほうの目安75万円に対して高いほうの目安は660万円で、比率にすると約8.8倍です。件数100件以上という条件を満たす全国1,467の組み合わせの中で見ると、比率が最も大きいのは福岡県北九州市八幡東区の中古戸建て(約14.8倍)、最も小さいのは茨城県つくばみらい市の中古マンション(約1.26倍)で、街によってこの幅の大きさ自体が大きく異なります。

幅が特に大きい街、特に小さい街を比べる

中央値まわりの幅がどれくらい違うのか、幅の大きい街と小さい街を並べて比べます。ここでは、先ほどの上越市・天栄村と、幅が特に小さい愛知県の2市(いずれも中古戸建て・取引件数100件以上)を比較します。

市区町村安いほうの目安真ん中(中央値)高いほうの目安件数高いほう÷安いほう
上越市(新潟県)250万円870万円2,100万円821件約8.4倍
岩瀬郡天栄村(福島県)75万円300万円660万円117件約8.8倍
知立市(愛知県)3,300万円3,900万円4,400万円386件約1.33倍
長久手市(愛知県)4,000万円4,600万円5,300万円345件約1.32倍

知立市・長久手市はいずれも件数(345〜386件)が十分にありながら、高いほうの目安と安いほうの目安の比率は上越市・天栄村の6分の1程度に収まっています。幅が狭いことは、価格が安いことを意味しません。表のとおり、幅が狭い長久手市の中央値(4,600万円)は、幅が広い上越市の中央値(870万円)よりずっと高くなっています。幅の大きさと価格水準は別の軸です。

知立市・長久手市のように幅が狭い街では、中央値がその街の相場をより代表しやすいと言えます。逆に上越市・天栄村のように幅が広い街では、中央値だけを見て「うちの物件もだいたいこの金額」と考えると、実際の価格から大きく外れる可能性があります。同じ「中央値870万円」という数字でも、幅が狭い街の870万円と、幅が広い街の870万円とでは、その数字が持つ意味の重みが違うということです。

中央値からの片側の開きで、平均値が引っ張られる方向を読む

このサイトは平均値を集計・掲載していませんが、中央値から安いほうの目安・高いほうの目安までの片側の開きを比べると、実際にどちらの方向に極端な取引が多いのかを読み取ることができます。片側の開きが大きいほうに、平均値を押し上げる(または押し下げる)ような取引が存在している可能性が高いと考えられます。

上越市の中古戸建てで確認すると、中央値(870万円)から安いほうの目安(250万円)までの開きは620万円、中央値から高いほうの目安(2,100万円)までの開きは1,230万円です。高いほう側の開きが、安いほう側のおよそ2倍あります。天栄村でも、安いほう側の開き(225万円)より高いほう側の開き(360万円)のほうが大きくなっています。

市区町村安いほう側の開き高いほう側の開き
上越市(新潟県)620万円1,230万円
岩瀬郡天栄村(福島県)225万円360万円
知立市(愛知県)600万円500万円
長久手市(愛知県)600万円700万円

上越市・天栄村はいずれも高いほう側の開きが安いほう側より大きく、もし平均値を計算すれば、中央値より高い金額になりやすい形をしています。一方、知立市・長久手市は両側の開きの差が小さく、平均値を計算しても中央値から大きくは離れにくい形です。これは、幅が広い市区町村ほど、平均値と中央値の差も開きやすいことを示す、ひとつの手がかりです。

なぜ街によって幅の大きさが違うのか

なぜ同じように件数が十分にある市区町村どうしでも、これほど幅の大きさが違うのでしょうか。このデータだけから理由を断定することはできませんが、いくつかの傾向は読み取れます。

このサイトが使っている公的データ(reinfolib・XIT001)には、駅からの距離や建物の階数、リフォームの履歴といった個別の条件が含まれていません。同じ市区町村・同じ種別であれば、これらの条件が違う物件もすべて同じ集計に含まれます。上越市や天栄村のように、市街地と郊外・農村部が同じ市区町村の中に混在し、建物の築年数や敷地の広さの幅も大きい地域では、価格の幅も広くなりやすいと考えられます。

一方、知立市・長久手市はいずれも愛知県内の都市部近郊にあり、比較的新しい住宅地の開発が進んだ地域です。こうした地域では、同じような時期に同じような規模で建てられた住宅が多く、条件の幅そのものが狭いために、価格の幅も狭くなりやすいと考えられます。ただし、これは今回取り上げた4市区町村から読み取れる傾向であり、すべての街に当てはまる法則として断定するものではありません。

このデータで分からないこと

中央値も、安いほう・高いほうの目安も、あくまで集計された金額であり、個別の物件を評価したものではありません。中央値・安いほう・高いほうの目安という3つの数字を並べても、それは「同じ市区町村・同じ種別の取引をひとまとめにした結果」を3点で示しているにすぎず、そのまとめの中のどこに自分の物件が位置するのかまでは教えてくれません。この記事で示した幅からは、次のような情報は分かりません。

分からないこと理由
自分の物件が幅のどのあたりに位置するか駅距離・階数・リフォーム履歴などの個別条件が公的データに含まれない
今後、価格がどちらに動くかこの記事の数字は過去の成約の集計であり、将来の予測は行っていない
平均値そのものの金額このサイトは中央値のみを集計しており、平均値は算出していない
幅が広い・狭い理由の断定街ごとの事情は個別に異なり、このデータだけでは特定できない

自分の物件が実際にいくらで売れそうかは、中央値や幅を見るだけでは分かりません。個別の条件を踏まえた金額を知りたい場合は、複数の不動産会社による査定を確認することになります。

自分の街の中央値と幅を確認する

この記事で取り上げたのは、上越市・岩瀬郡天栄村・知立市・長久手市という一部の市区町村の例です。中央値もその幅も市区町村ごとに異なるため、自分の街・自分に近い条件でどうなっているかは、個別に確認する必要があります。

自分の街の中央値と幅を確かめる
  1. 1お住まいの地域・都道府県を選ぶ
  2. 2市区町村を選ぶ
  3. 3築年数のおおよその範囲を選ぶ
  4. 4その条件に合う実際の成約価格を、件数つきで確認する

ウリドキナビでは、画面右下の相談窓口から、都道府県・市区町村・築年数を選ぶだけで、その条件に合う実際の成約価格を確認できます。物件種別(マンション・戸建て)を選ぶ必要はなく、両方の結果をまとめて確認できます。回答するのは推計モデルではなく、条件に合う実際の成約記録です。条件に合う取引が少ない場合は、その旨を明示したうえで参考値として示します。実際の成約価格を確認する のページからも、同じ内容を確認できます。

この記事で例に挙げた市区町村のうち、上越市の中古戸建て相場、知立市の中古戸建て相場、長久手市の中古戸建て相場では、それぞれの市区町村の価格推移を、中央値・件数とともにより詳しく確認できます。

あわせて読みたい

同じ成約価格のデータを使って、成約価格と査定額は何が違うのか では、成約価格の幅がなぜ生まれるのか(駅距離やリフォーム履歴といった個別条件が公的データに含まれないこと)を、査定額との関係から詳しく解説しています。この記事とあわせて読むと、中央値・幅・査定額の3つの数字がそれぞれ何を表しているかを整理しやすくなります。

この記事のデータについて

項目内容
出典国土交通省 不動産情報ライブラリ(reinfolib) 不動産取引価格情報(XIT001)
対象実際に成立した中古マンション・中古戸建ての成約価格(推計・予測は含まない)
集計単位市区町村 × 種別(築年数・面積は問わない)
母集団の下限同じ市区町村・種別の取引が100件以上
対象の組み合わせ数全国の市区町村×種別のうち、この条件を満たす1,467件
幅の示し方対象取引を価格の低い順に並べたときの、安いほうの目安(下から4分の1)・真ん中(中央値)・高いほうの目安(上から4分の1)

この記事で使った幅の大きさ(高いほうの目安÷安いほうの目安)は、母集団1,467件の組み合わせの中から、幅が大きい例・小さい例をそれぞれ実際の数字で示したもので、全国の平均的な幅を表すものではありません。自分の街の中央値と幅がどのくらいかは、上記の成約価格の確認、またはそれぞれの市区町村の記事で個別に確認してください。

このサイトのすべての市区町村記事(/city/以下のページ)でも、価格推移として示しているのは中央値です。ニュースや広告で見かける「平均価格」の見出しと、このサイトの中央値が一致しないことがあるのは、そもそも計算方法が違う指標を並べているためであり、どちらかが誤っているわけではありません。同じ「価格」という言葉でも、何を計算した数字なのかを確認する習慣が、相場を読み違えないための第一歩になります。

このデータは実際の取引にもとづいて更新します。新しい年の成約が加わった際は、同じURLのまま数字を更新します。年ごとに新しいページを作ることはしません。このサイトは平均値を算出・掲載していないため、この記事でも平均値そのものの金額は示していません。

よくある質問

なぜ平均値ではなく中央値を使うのですか?
平均値は、少数の極端に高い(または安い)取引が混ざると、その1件に全体が引っ張られて実態からずれた金額になりやすいためです。中央値は価格順に並べた真ん中の1件の価格なので、極端な取引が混ざっても大きくは動きません。このサイトでは相場としてすべて中央値を使っています。
中央値だけ分かれば、その街の相場は十分に分かりますか?
中央値は極端な値に振り回されにくい指標ですが、それだけで街の相場のすべてが分かるわけではありません。記事で示したとおり、同じ中央値でも街によって周辺の価格の幅は大きく異なります。自分の物件がその幅のどのあたりに位置するかまでは、中央値だけでは分かりません。
価格の幅が広い街と狭い街、どちらがよいということはありますか?
幅の広さと価格の高い・安いは別の軸です。記事で挙げた長久手市のように、幅が狭くても中央値そのものは高い市区町村もあります。幅が広い・狭いのどちらがよいという優劣はなく、幅が狭い街のほうが中央値がより街全体を代表しやすい、という違いです。
このサイトで自分の物件の正確な価格は分かりますか?
このサイトが示すのは、公的データにもとづく実際の成約価格の中央値と幅です。個別の物件の駅距離やリフォーム履歴などの条件までは反映されていないため、自分の物件が幅のどのあたりに位置するかを正確に知りたい場合は、複数の不動産会社による査定を確認することをおすすめします。