「札幌市の相場は◯◯万円」「福岡市は△△万円」というように、政令指定都市の相場は市の名前ひとつで語られがちです。ですが政令市には複数の行政区があり、区によって成り立ちも街の性格も大きく違います。同じ市の中でも、区が変われば実際の成約価格はどれくらい違うのか。この記事では、国土交通省の不動産情報ライブラリ(reinfolib)が公開する実際の成約価格(XIT001)を区単位で集計し、全国20の政令指定都市を対象に、区ごとの中古マンション中央値を並べます。

集計の単位は区です。市全体をひとつの集団として中央値を取るのではなく、区ごとに取引が30件以上ある場合にかぎり、その区の中央値をそのまま並べています。区をまたいだ再集計はしていません。「市の相場」という一段抽象化された数字ではなく、区という生活実感に近い単位の実際の数字をそのまま見せることを目的にしています。

対象は全国20の政令指定都市です。行政区は全国に171ありますが、区ごとの取引が30件に届かない区(過疎地域を含む郊外区など)は今回の集計から外れており、実際に集計に含まれたのは163区です。推計や将来予測はしていません。ここに並ぶのは、すべて過去の実際の成約価格です。「この区が売り時」といった判断はこの記事の範囲外で、あくまで区ごとの水準の違いを実際のデータで確かめることが目的です。

区ごとの価格差が大きい政令市ランキング

さいたま市の区ごとの中古マンション中央値
さいたま市の区ごとの中古マンション中央値

まず、区ごとの最高値と最安値の開き(倍率)が大きい順に20市を並べます。開きは「もっとも高い区の中央値 ÷ もっとも安い区の中央値」で、市内の区の間でどれだけ価格の幅があるかを表します。件数(取引件数)は必ず併記し、30件に満たない区は最初から集計に含めていません。

順位政令市都道府県最高値区中央値(万円)件数最安値区中央値(万円)件数開き(倍)
1さいたま市埼玉県浦和区4,3001,906岩槻区1,1502723.74
2浜松市静岡県中央区1,3001,715浜名区3802223.42
3神戸市兵庫県東灘区2,7003,877北区8201,1853.29
4千葉市千葉県中央区2,5001,644花見川区8901,3572.81
5札幌市北海道中央区2,3006,644南区8801,0172.61
6横浜市神奈川県都筑区4,4002,259旭区1,8001,6612.44
7京都市京都府中京区3,3002,464山科区1,5001,0462.20
8大阪市大阪府天王寺区3,2002,162生野区1,5003402.13
9名古屋市愛知県瑞穂区2,900928港区1,4007892.07
10福岡市福岡県早良区2,8002,012博多区1,4005,0682.00
11広島市広島県南区2,700944安佐北区1,4001111.93
12堺市大阪府北区2,5001,255中区1,4002761.79
13川崎市神奈川県中原区4,7003,716川崎区2,7003,5501.74
14北九州市福岡県門司区1,400449若松区9301151.51
15相模原市神奈川県緑区2,300762中央区1,6002,0271.44
16静岡市静岡県駿河区2,000520清水区1,5002991.33
17熊本市熊本県西区1,900283東区1,5003761.27
18岡山市岡山県北区2,0001,935南区1,6003121.25
19仙台市宮城県太白区2,0001,731若林区1,7001,0931.18
20新潟市新潟県東区1,30088西区1,1001531.18

もっとも開きが小さいのは仙台市と新潟市で、どちらも1.18倍でした。ただし後で見るように、開きが小さいことと、市内の価格水準が均一であることは同じ意味ではありません。

区の数と価格差の大きさは比例しない

区の数が多い市ほど、区の間の価格差も広がりやすいように思えます。実際のデータで確かめます。対象区数が多い順に並べ替えると、次のようになります。

対象区数政令市開き(倍)
24大阪市2.13
18横浜市2.44
16名古屋市2.07
11京都市2.20
10札幌市2.61
10さいたま市3.74
9神戸市3.29
8広島市1.93
7福岡市2.00
7川崎市1.74
7北九州市1.51
6千葉市2.81
6堺市1.79
5熊本市1.27
5仙台市1.18
3相模原市1.44
3静岡市1.33
3岡山市1.25
3新潟市1.18
2浜松市3.42

対象区数がもっとも多い大阪市(24区)の開きは2.13倍で、20市の中では8位です。区数が2番目に多い横浜市(18区)も2.44倍で6位にとどまります。一方、対象区数が10区のさいたま市が1位(3.74倍)、区数がわずか2区の浜松市が2位(3.42倍)です。区の数が多いほど開きが大きくなる、という単純な比例関係はこのデータからは見られません。

なぜ区によってこれほど価格が違うのか

このデータだけから断定的な理由は言えませんが、いくつかの傾向は読み取れます。

1つ目は、最高値区の多くが、その市の中心部を指す名前を持つ区だという点です。浜松市中央区・千葉市中央区・札幌市中央区・京都市中京区・岡山市北区(市役所所在地)のように、「中央」「中京」を含む区や、もともとの市街地の中心にあたる区が最高値になっているケースが目立ちます。ただしさいたま市の最高値は「中央区」ではなく浦和区で、横浜市の最高値も中心市街地の「中区」「西区」ではなく都筑区(4,400万円)という郊外の住宅開発エリアです。区の名前だけで一律に価格の高さを説明できるわけではありません。

2つ目は、取引件数(流動性)の高さと価格水準の高さは、必ずしも一致しないという点です。福岡市では、最高値の早良区(2,800万円)の取引件数が2,012件であるのに対し、最安値の博多区(1,400万円)の取引件数は5,068件と、安いほうの区のほうがむしろ取引は活発です。博多区は九州の交通拠点として単身・投資用途のコンパクトな物件の取引が多く、中央値を押し下げている可能性がありますが、この記事のデータからは物件の間取りや専有面積までは分からず、理由を特定することはできません。

3つ目は、区の名前と価格水準がねじれる例があることです。相模原市では、名前に「中央」を含む中央区の中央値(1,600万円)より、緑区の中央値(2,300万円)のほうが高くなっています。中央区は取引件数2,027件と厚みがある一方、緑区は762件です。区の名前から価格水準を推測することはできないという点は、さいたま市や横浜市の例とあわせて、この記事全体に共通する注意点です。

4つ目は、区が増えた経緯そのものです。北九州市は1963年に門司市・小倉市・若松市・八幡市・戸畑市の5市が合併してできた市で、区の名前(門司区・若松区など)にも合併前の旧市の名残が残っています。対象区数は7とやや多いにもかかわらず、開きは1.51倍と20市の中では下から7番目に小さく収まっています。旧5市がいずれも工業都市として近い性格を持っていたことが背景にあるとも考えられますが、区の成り立ちの詳細まではこの記事のデータだけからは特定できません。同じ「合併で区が増えた市」でも、さいたま市(2001年に旧浦和市・大宮市・与野市が合併、2005年に岩槻市を編入)のように開きが大きくなる市もあれば、北九州市のように開きが小さいままの市もあり、合併の有無だけで開きの大きさを説明することもできません。

開きが小さくても中身はまったく違う:川崎市と新潟市

区ごとの開き(倍率)だけを見ると、川崎市(1.74倍)と新潟市(1.18倍)はどちらも「開きが比較的小さい市」に分類されます。ですが実際の中央値を並べると、両市の実態はまったく違います。

市区中央値(万円)件数
川崎市中原区(最高値)4,7003,716
川崎市幸区4,4002,389
川崎市高津区3,7002,511
川崎市宮前区3,4002,865
川崎市麻生区3,1001,529
川崎市多摩区2,7001,596
川崎市川崎区(最安値)2,7003,550
新潟市東区(最高値)1,30088
新潟市中央区1,2001,431
新潟市西区(最安値)1,100153

川崎市は、もっとも安い川崎区(2,700万円)でも、新潟市のもっとも高い東区(1,300万円)の2倍を超えます。開きの倍率が近いからといって、市どうしの水準まで近いとはかぎりません。開き(倍率)は同じ市の中での相対的なばらつきを示す指標であり、市と市を比べるための指標ではないという点は、この記事のランキング全体を読むうえで注意が必要です。

このデータで分からないこと

区単位の中央値は、市全体でひとくくりにするより実態に近づきますが、次のことはまだ反映されていません。

  • 駅からの距離・最寄り路線: 同じ区の中でも、駅前かどうかで価格は大きく変わりますが、この集計は区単位までしか絞り込んでいません。
  • 築年数・専有面積: 今回の集計は築年帯・面積帯を問わず、区内のすべての取引をまとめています。
  • 階数・向き・リフォーム履歴: 公開されている取引データにはこれらの情報は含まれていません。
  • 区内でのさらに細かい地域差: たとえば大阪市北区の中にも、梅田駅前と区の外縁部とでは水準が違うはずですが、この記事は区単位までの集計です。
  • 取引件数30件未満の区: 堺市美原区・岡山市東区・浜松市天竜区・新潟市北区など8区は、取引件数がこの記事の条件(30件以上)に届かず、集計に含まれていません。含まれていない区に実態がないわけではなく、少数の実際の成約を件数つきの参考値として個別に確認する方法を、次の項で案内します。

自分の街の実際の成約価格を確認する

区単位の比較で自分の住む市・区がどのあたりに位置するかが分かったら、次はさらに細かい、自分の物件に近い条件での実際の価格を確認することをおすすめします。区の中央値がそのまま自分のマンションに当てはまるとは限りません。

自分の条件に近い成約価格を確かめる
  1. 1お住まいの地域・都道府県を選ぶ
  2. 2市区町村(政令市の場合は区)を選ぶ
  3. 3築年数のおおよその範囲を選ぶ
  4. 4その条件に合う実際の成約価格を、件数つきで確認する

ウリドキナビでは、画面右下の相談窓口から、都道府県・市区町村(区)・築年数を選ぶだけで、その条件に合う実際の成約価格を確認できます。物件種別(マンション・戸建て)を選ぶ必要はなく、両方の結果をまとめて確認できます。回答するのは推計モデルではなく、条件に合う実際の成約記録です。実際の成約価格を確認する のページからも、同じ内容を確認できます。

このレポートのような区単位の集計と、区ごとの記事は見る目的が異なります。区の中央値はあくまで区全体をならした代表値で、自分の街の価格推移や取引件数の詳しい傾向を知りたい場合は、その区ごとの記事のほうが実態に近い数字を示します。たとえば今回もっとも開きの大きかったさいたま市の中では、最高値だった浦和区の中古マンション相場と、最安値だった岩槻区(現時点では記事化に必要な条件を満たしていません)を比べることができますし、2位だった浜松市では中央区と浜名区、川崎市では中原区と川崎区、新潟市では中央区と西区の記事でも、それぞれの区単位の実際の価格推移を確認できます。

この記事のデータについて

項目内容
出典国土交通省 不動産情報ライブラリ(reinfolib) 不動産取引価格情報(XIT001)
対象中古マンションの実際の成約価格(推計・予測は含まない)
集計単位政令指定都市の行政区(築年帯・専有面積は問わない)
母集団の下限同じ区の取引が30件以上
対象政令市数20(全国のすべての政令指定都市)
対象区数163(全国の行政区171のうち、取引件数の条件を満たした区)
条件を満たさなかった区8(堺市美原区・岡山市東区・浜松市天竜区・新潟市北区/南区/江南区/秋葉区/西蒲区)
開きの算出方法市内でもっとも高い区の中央値 ÷ もっとも安い区の中央値(区をまたいだ再集計はしていない)

このデータは実際の取引にもとづいて更新します。新しい年の成約が加わった際は、同じURLのまま数字を更新します。年ごとに新しいページを作ることはしません。ここで示した中央値や開きは、特定の1戸のマンションの価格を保証するものではなく、あくまで条件を満たした区を単位にした代表値です。

よくある質問

なぜ市全体ではなく区ごとに集計しているのですか
政令指定都市は複数の行政区からなり、区によって街の成り立ちや取引の性質が違います。市全体をひとつの集団として中央値を取ると、区ごとの実態が見えなくなるため、この記事では区ごとに取引が30件以上ある場合にかぎり、区単位の中央値をそのまま並べています。区をまたいだ再集計はしていません。
開き(倍率)が大きい区ほど売り時ということですか
いいえ、開きは区どうしの相対的な価格差を示す指標であり、売り時を示すものではありません。この記事は過去の実際の成約価格を集計したもので、将来の価格の動きを予測するものではありません。
自分の区がランキングに出ていない場合はどうすればいいですか
取引件数が30件に満たない区は今回の集計には含まれていません。それでも実際に成約があった記録は存在するため、都道府県・市区町村(区)・築年数を選んで実際の成約価格を件数つきで確認できるページを用意しています。画面右下の相談窓口、または/price-checkのページから確認できます。
開きが小さい市は、区によって価格差がほとんどないということですか
開きの倍率が小さくても、市そのものの価格水準が高い場合と低い場合があります。たとえば川崎市(開き1.74倍)ともっとも安い区でも2,700万円ですが、新潟市(開き1.18倍)のもっとも高い区は1,300万円です。開きの倍率だけで市どうしの水準を比べることはできません。